本棚記録と稀覯本(1)

こういう記録が意外と数年後の引越しのときに役立ったりするんです。本に囲まれる生活をしていると、或いは本棚の復旧だけでツイン・ピークスの1シーズンくらいは流し終えてしまう始末ですからね。そうこうしているうちに焚きすぎた冷房の気配が残る自室で迎える夏の始まりは、往々にして全世界的にUFOの日なんです。

 

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冒頭で怪文書かましてしまう癖が治りません。皆さんはどうですか?

記録ついでに少しだけ雑記です。

 

僕の創作は、創作とはほぼ無関係な暮らしから得られる心象がかなり多くの部分を占めます。究極的には僕が見てきたもの全てを詞に落とし込んでいるだけで、君の影を見えないフリしてた夏も982号棟に落ちていた天使の輪っかも実体験なんです。

ただまあ、それを他人に伝えるとなったら実体を持たせないとなんのこっちゃ分からんので、大好きな創作物を摂取したときの手触りや温度を思い出しながら恐る恐る造形します。

ここでようやく本題なのですが、僕の創作物のインプットは他の音楽作ってる方々のそれとたぶんかなり大きく異なります。もちろん音楽も沢山聴きますが、正直なところ邦ロック文脈とアニソン文脈とボカロ文脈が9割で、クラシックやクラブミュージックに深い造詣がある方々と比べると自分の音楽趣味は呆れるほど普通でつまらなくて退屈だな、と思ってしまうことすらある。自己肯定感をなんとか支えてくれているのは割と本です。より正確には本と音楽というメディアの垣根を臆面も無く横断できる強い気持ち・強い愛なんだけど、まあ簡単に言えば本です。

冒頭の写真は自室にある本棚のほんの一部でしかないのですが、偶然か必然か、僕の人間性が結構凝縮されている一角な気がするし、やっぱり自分で見ても「おおっ」となる楽しい本棚だなあという感じがある。漫画読み視点でもこれは結構退屈しないんじゃないかなと思います。

 

影響を受けた作家は星の数ほどいますが、特に石黒正数先生や羽海野チカ先生、鬼頭莫宏先生からは「他人といるときの心の在り方」を摂取してる気がしていて、つくみず先生、ウエダハジメ先生、阿部共実先生の表現には映画的な情緒があると思っていて、「一人でいるときの心の在り方」を摂取してる気がします。派手な看護婦先生、模造クリスタル先生、平方イコルスン先生、三島芳治先生辺りのコミティア作家からはもうちょっと抽象性に落とし込んだ何かです。言語化が難しいものをそのまま摂取するのも生きてくうえで必要な作業だと思ってます。

別の本棚ですが、小説は米澤穂信さんと森見登美彦さんが主な摂取源で、最近の作家だと円居晩さんや岩倉文也さんとかも読みます。あとSFマガジンをときどき。電撃文庫とかはあまり通ってきてないのですが、『イリヤの空、UFOの夏』『電波女と青春男』辺りを繰り返し読む日々です。

 

コミティアに頻繁に通うので、同人誌も沢山あります。どうでもいいですが性欲が極端に薄いので所謂エロ本は友達がネタで僕の分も買ってきていつの間にか無償で手に入ってるパターンのものしかないです。

折角なので稀覯本を紹介します。これも取り急ぎ思い当たった一部ではありますが、特にコミティア系の同人誌は後の有名作家でもネットに転がってる情報があまりにも少ないので。

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・つくみず『文明の夜に焼く秋刀魚と電磁波測定器について』(月水技研, 2014)

文明とは何か、生殖とは何か、生命とは何か、といったことが百合と終末世界を交えて牧歌的に描かれます。同年頒布の『アロワナ』よりもだいぶソフトな百合で読みやすい。少女終末旅行よりシメジシミュレーションに近い感じ、と言えば分かる人には分かるでしょうか。

今はかなり入手困難だと思いますが、つくみず先生のファンの方々にはどうにかして身内のツテとかを辿って是非読んでみていただきたい一冊です。

 

あらゐけいいち細雪』(ヒマラヤイルカ, 2004)

最初期作品集。現代の特に話し言葉において衒学と哲学はしばしば混同されますが、初期のあらゐけいいち先生は哲学をやってたと思います。日常風景と理想空間を行ったり来たりしながら、自分にとって世界はどう見えているか、他人にとって自分はどう見えているか、幸せの角度を変えるとどうなるか、ということを可愛らしいデフォルメを通じて問いかける。『日常』以降に通ずる超ハイテンションギャグの片鱗も一応あります(本格的に出始めるのは同人版『Helvetica Standard』辺りからです)。

それと、このときは写植をやってた縁でTAGRO先生の影響が強く出てます。キャラデザと書き文字に注目すると分かりやすい。

 

つくしあきひと『スターストリングスより』(ドアビートル, 2015)

もともとは2011年に前編と後編に分けて頒布されたものの再販で、1冊に合わさっています。今は電子版がpixivで公開されてたと思います。

大前提としてつくしあきひと先生の絵柄が好きなら絶対に読むべきです。主人公の"目指す方向"が違うだけで、飽くなき好奇心の探求という意味ではメイドインアビスの前身と言っていいと思います。結末にはそれなりの覚悟が必要です。

 

千葉大学漫画研究会『PANDORA73』(千葉大学漫画研究会, 2015)

千葉大学の学祭にはよく行ってて、友達を待ってる間に何気なく漫研に足を運んで何気なく部誌を手に取ってみたら衝撃的に上手い方がいて衝動買いした思い出の一冊です。後に『キャッチャー・イン・ザ・ライム』や『海辺のキュー』で知られることとなる背川昇先生のことで、当時は「ゴロリ」というHNをメインで用いていました。

コミックリュウに掲載された短編『少女シグナレス』の原型と、『天才の必要条件』という4コマ漫画3ページが収録されています。前者は個人誌で頒布されているほかpixivでも読めますが、後者はこの部誌限定。たぶん。

位置原光Z先生と平方イコルスン先生の影響が非常に強く出ていながらオリジナリティもあって線やコマ割りがシンプルで読みやすくて技術もセンスも完全にプロのそれでしかなく、秒でtwitter見つけて「この人これで普通の大学生やってるのか。。。。」と思ったのをよく覚えています(この1年半後くらいに無事商業作家に転向します)。

数年前まで背川先生と合同でコミティアに出ていらっしゃった猫峰四葉さんという方(確かこの2015年に漫研のポスターを描かれていました。サイバーパンク風のめちゃめちゃ上手いイラストだったと記憶しています)の漫画も3本収録されていて、ずっと大事にしたい本です。なんとなく、自分の中の「大学という存在の面白さ」が凝縮されているようで。

 

 

眠いし長くなってきたし全世界的にUFOの日が終わってしまうのでこの辺にしとこうかなと思います。

暇ができたら稀覯本紹介の続き書くかも。

 

リストだけ書いときます。

こかむも『ぬるめた』(幕府, 2019)

今井哲也『万能魔法少女マルチツールまどか』上,下 (杉並デルポイスタジオ, 2012)

のりゆき『NRBN』(アルニホメル,2016)『NRBN2』(アルニホメル, 2017)

はな武士『白息』(2019)

平方イコルスン『無理』(2011)

あらゐけいいち『46 spring』(ヒマラヤイルカ, 2012)