本棚記録と稀覯本(1)
こういう記録が意外と数年後の引越しのときに役立ったりするんです。本に囲まれる生活をしていると、或いは本棚の復旧だけでツイン・ピークスの1シーズンくらいは流し終えてしまう始末ですからね。そうこうしているうちに焚きすぎた冷房の気配が残る自室で迎える夏の始まりは、往々にして全世界的にUFOの日なんです。
冒頭で怪文書をかましてしまう癖が治りません。皆さんはどうですか?
記録ついでに少しだけ雑記です。
僕の創作は、創作とはほぼ無関係な暮らしから得られる心象がかなり多くの部分を占めます。究極的には僕が見てきたもの全てを詞に落とし込んでいるだけで、君の影を見えないフリしてた夏も982号棟に落ちていた天使の輪っかも実体験なんです。
ただまあ、それを他人に伝えるとなったら実体を持たせないとなんのこっちゃ分からんので、大好きな創作物を摂取したときの手触りや温度を思い出しながら恐る恐る造形します。
ここでようやく本題なのですが、僕の創作物のインプットは他の音楽作ってる方々のそれとたぶんかなり大きく異なります。もちろん音楽も沢山聴きますが、正直なところ邦ロック文脈とアニソン文脈とボカロ文脈が9割で、クラシックやクラブミュージックに深い造詣がある方々と比べると自分の音楽趣味は呆れるほど普通でつまらなくて退屈だな、と思ってしまうことすらある。自己肯定感をなんとか支えてくれているのは割と本です。より正確には本と音楽というメディアの垣根を臆面も無く横断できる強い気持ち・強い愛なんだけど、まあ簡単に言えば本です。
冒頭の写真は自室にある本棚のほんの一部でしかないのですが、偶然か必然か、僕の人間性が結構凝縮されている一角な気がするし、やっぱり自分で見ても「おおっ」となる楽しい本棚だなあという感じがある。漫画読み視点でもこれは結構退屈しないんじゃないかなと思います。
影響を受けた作家は星の数ほどいますが、特に石黒正数先生や羽海野チカ先生、鬼頭莫宏先生からは「他人といるときの心の在り方」を摂取してる気がしていて、つくみず先生、ウエダハジメ先生、阿部共実先生の表現には映画的な情緒があると思っていて、「一人でいるときの心の在り方」を摂取してる気がします。派手な看護婦先生、模造クリスタル先生、平方イコルスン先生、三島芳治先生辺りのコミティア作家からはもうちょっと抽象性に落とし込んだ何かです。言語化が難しいものをそのまま摂取するのも生きてくうえで必要な作業だと思ってます。
別の本棚ですが、小説は米澤穂信さんと森見登美彦さんが主な摂取源で、最近の作家だと円居晩さんや岩倉文也さんとかも読みます。あとSFマガジンをときどき。電撃文庫とかはあまり通ってきてないのですが、『イリヤの空、UFOの夏』『電波女と青春男』辺りを繰り返し読む日々です。
コミティアに頻繁に通うので、同人誌も沢山あります。どうでもいいですが性欲が極端に薄いので所謂エロ本は友達がネタで僕の分も買ってきていつの間にか無償で手に入ってるパターンのものしかないです。
折角なので稀覯本を紹介します。これも取り急ぎ思い当たった一部ではありますが、特にコミティア系の同人誌は後の有名作家でもネットに転がってる情報があまりにも少ないので。
・つくみず『文明の夜に焼く秋刀魚と電磁波測定器について』(月水技研, 2014)
文明とは何か、生殖とは何か、生命とは何か、といったことが百合と終末世界を交えて牧歌的に描かれます。同年頒布の『アロワナ』よりもだいぶソフトな百合で読みやすい。少女終末旅行よりシメジシミュレーションに近い感じ、と言えば分かる人には分かるでしょうか。
今はかなり入手困難だと思いますが、つくみず先生のファンの方々にはどうにかして身内のツテとかを辿って是非読んでみていただきたい一冊です。
最初期作品集。現代の特に話し言葉において衒学と哲学はしばしば混同されますが、初期のあらゐけいいち先生は哲学をやってたと思います。日常風景と理想空間を行ったり来たりしながら、自分にとって世界はどう見えているか、他人にとって自分はどう見えているか、幸せの角度を変えるとどうなるか、ということを可愛らしいデフォルメを通じて問いかける。『日常』以降に通ずる超ハイテンションギャグの片鱗も一応あります(本格的に出始めるのは同人版『Helvetica Standard』辺りからです)。
それと、このときは写植をやってた縁でTAGRO先生の影響が強く出てます。キャラデザと書き文字に注目すると分かりやすい。
・つくしあきひと『スターストリングスより』(ドアビートル, 2015)
もともとは2011年に前編と後編に分けて頒布されたものの再販で、1冊に合わさっています。今は電子版がpixivで公開されてたと思います。
大前提としてつくしあきひと先生の絵柄が好きなら絶対に読むべきです。主人公の"目指す方向"が違うだけで、飽くなき好奇心の探求という意味ではメイドインアビスの前身と言っていいと思います。結末にはそれなりの覚悟が必要です。
・千葉大学漫画研究会『PANDORA73』(千葉大学漫画研究会, 2015)
千葉大学の学祭にはよく行ってて、友達を待ってる間に何気なく漫研に足を運んで何気なく部誌を手に取ってみたら衝撃的に上手い方がいて衝動買いした思い出の一冊です。後に『キャッチャー・イン・ザ・ライム』や『海辺のキュー』で知られることとなる背川昇先生のことで、当時は「ゴロリ」というHNをメインで用いていました。
コミックリュウに掲載された短編『少女シグナレス』の原型と、『天才の必要条件』という4コマ漫画3ページが収録されています。前者は個人誌で頒布されているほかpixivでも読めますが、後者はこの部誌限定。たぶん。
位置原光Z先生と平方イコルスン先生の影響が非常に強く出ていながらオリジナリティもあって線やコマ割りがシンプルで読みやすくて技術もセンスも完全にプロのそれでしかなく、秒でtwitter見つけて「この人これで普通の大学生やってるのか。。。。」と思ったのをよく覚えています(この1年半後くらいに無事商業作家に転向します)。
数年前まで背川先生と合同でコミティアに出ていらっしゃった猫峰四葉さんという方(確かこの2015年に漫研のポスターを描かれていました。サイバーパンク風のめちゃめちゃ上手いイラストだったと記憶しています)の漫画も3本収録されていて、ずっと大事にしたい本です。なんとなく、自分の中の「大学という存在の面白さ」が凝縮されているようで。
眠いし長くなってきたし全世界的にUFOの日が終わってしまうのでこの辺にしとこうかなと思います。
暇ができたら稀覯本紹介の続き書くかも。
リストだけ書いときます。
こかむも『ぬるめた』(幕府, 2019)
今井哲也『万能魔法少女マルチツールまどか』上,下 (杉並デルポイスタジオ, 2012)
のりゆき『NRBN』(アルニホメル,2016)『NRBN2』(アルニホメル, 2017)
はな武士『白息』(2019)
平方イコルスン『無理』(2011)
あらゐけいいち『46 spring』(ヒマラヤイルカ, 2012)
『宝石の降る夜に』解題:月あかり研究会対談
前文
初めましての方は初めまして、小緑はるです。
月あかり研究会『宝石の降る夜に』の原案・作詞・一部作曲・音楽監修・デザイン担当として広く知られてないです。いや、いいんです。僕は昔から表舞台に出るのが苦手なので......星の隅でぐるぐると何かを考えてる方が似合ってます。継続中です。
ところで皆さんはpanpanyaという漫画家さんをご存知でしょうか。
僕は大好きで、背景の異常な描き込み量(それも点描やハッチングを多用)や白昼夢のような短いお話に定評のある作家です。
panpanyaさんは単行本の巻末に必ず”解題”と称して各話解説を入れるんです。装丁も含めて漫画なのに小説みたいな独特の雰囲気を持っていて、自分もこういうことやってみたいなーと思っていたりして。
実際、『宝石の降る夜に』(特にフィジカル版)は短編集の小説のような空気感を持たせることができたような気がしています。それでもあの抽象的な世界観をなるべく崩したくなくて、聴いてくださった皆さんの心象に委ねてみたくて、解題(というか音楽で言うならセルフライナーノーツですね)は敢えて入れなかったんです。
でもやっぱりやりたいものはやりたい。なので、今年の総括も兼ねて『宝石の降る夜に』の解題をはてなブログとかでやってしまおう、とふと思い立ったわけです。色んな形式を考えましたが、ああああさんをお呼びして対談風の記事を作るのが一番面白そうかなと。
ご快諾いただいたああああさん、Twitterのアンケートにご回答くださった皆さん、そして『宝石の降る夜に』を聴いてくださったすべての皆さん、本当にありがとうございました。
ここからが本編です。ああああさんとの対談形式でお送りします。
(結構なボリュームになってしまったので、以下の目次を使うことをオススメします...!)
- 前文
- 月あかり研究会って何?
- Tr.1『試験電波放送#300』について
- Tr.2『光の凪にうたって』について
- Tr.3『祈りも魔女も眠る頃』について
- Tr.4『宝石の降る夜に』について
- Tr.5『ギターポップ・フォアキャスト(your memories will be a lot of melodies!)』について
- 今年良かった曲5選ずつ(絞れるはずないんですけどね)
- 終わりに
月あかり研究会って何?
小緑はる:
あのね、割と雑に4項目考えてアンケ取ったわけですが、まさかの「月あかり研究会って何?」が「各曲のお気に入りポイント」に肉薄する勢いで2位に着けてまして(笑)。まあこれは僕の功罪でもあると思うんですけども。
ああああ:
新譜リリースしまーすつっていきなり""月あかり研究会""!!つって。誰!?!?みたいにね、なった人は多いんじゃないかなって気しますね(笑)
小緑はる:
まあその辺りを氷解させるっていうのもね、今回の記事の目標でもあるんで、まずは「月あかり研究会って一体ナンナンダー」って部分に触れていこうかなと。
本来あんまりこう勿体ぶるものでもなかったんですけどなんとなく今まで謎めいたままにしてきちゃいました......(笑)
ああああ:
あい~
小緑はる:
月あかり研究会とは、”原案を小緑はるおよびああああに置く創作ユニット”です。究極的にはそれだけで、ボーカル曲だけをやるユニットにするつもりも特に無いんです。
僕にしてもああああさんにしても、あくまでメインの活動としてそれぞれ作詞家/作曲家をやっているというだけで、セクションの垣根を越えてみたい好奇心みたいなものはやっぱりあって。
月あかり研究会は、むしろ意図的にそういう活動を促していきたいんですよね。
実際『宝石の降る夜に』はボーカルの方々や演奏の方などと相互に色んな提案を出し合っていった結果のアルバムで、良い意味での同人感に溢れた作品になったんじゃないかなと思ってます。
ああああ:
実は楽曲『宝石の降る夜に』ってもともと単曲でリリースする予定で、曲のイメージが固まってくうちに「こんな感じで新曲作ってアルバムにしてみません?」っていうのを小緑氏が企画書にまとめてきて。
そこで同時に「こういうユニットとしてリリースしてみません?」って感じで月あかり研究会が出来たみたいな流れだったよね。
小緑はる:
そうそう。そんな流れで生まれたユニットなんで企画段階で一番重視するのは”原案を小緑はるおよびああああに置く”っていう部分で、やっぱりコアとなる部分なので原案まではしっかり僕らの間だけで完結させるようにしています。
アルバムの芯が途中でブレたりすると、きっとゲスト参加してくださる方々にも迷惑がかかってしまうので。
逆に僕とああああさんが組んでる作品でも、原案が僕らに無ければ「月あかり研究会」名義は用いないことにしています。
ああああ:
うんうん。だから僕らの共作が全部「月あかり研究会」ではないってハナシやね。
小緑はる:
例えばチュウニズムのボーカル公募に出してる『魔法仕掛けのホログラム』なんかはキャラクターの設定やストーリーは全部SEGAさんが作ったものですよね。僕らはそれを研究した上でやりたい表現を乗算してるという具合なので。
他にも依頼で受けてまだ世に出てない曲も幾つかあって、そういうのも勿論「月あかり研究会」のプロジェクトの原理からは外れますね。
小緑はる:
ところで、沢山いただいたご感想の中に「小緑はるって何者?」的なのもありまして(笑)。
ああああ:
あったね(笑)。いや誰やねん!ってなる気持ちは分かるんで、まあこの機会に説明しといてもいいんじゃないかと笑。
小緑はる:
えー、まあ大したことでもないんですが・・・笑。
僕とああああさんは同じ大学の出身で、僕が1コ下の後輩にあたります。なんとなーくDTMサークルなるものに入ってみたらなんかやたらとカービィみたいな曲作る先輩がいて、ポップンもやってて。入学早々趣味が合いそうな人見つかったなと思って喋りかけたのがきっかけですね。
んで、言っちゃえばそれからの付き合いというだけなんですけど笑。
ああああ:
そうやね(笑)。
まあでもあれよね、一旦作曲からは完全に離れてたんだけど縁あって作詞って形でまた創作に関わることになってっていうのは語ってもいい気がするけど。
小緑はる:
あーまあそうか。
元々作曲したくてDTMサークルに入ったわけじゃなかったというのもあり持ち前の「別に自分なんかが作らんでも季節はめぐるしな・・・」みたいな底なしの根暗さもありという感じで。
でも有難いことに同期や一部の先輩とは交友関係が続いていたりもして、その縁でほんとにたまたまです。急に作詞やることになって、続くとは思ってなかったんですけどなんか色々やってたらこんなことに・・・(笑)。
ああああ:
気が付いたら一緒にわちゃわちゃやってますけども笑。
小緑はる:
そんな感じで作ったのが『宝石の降る夜に』ですね。
「夜」「微睡み」「死生観」「言葉とうたの不思議」あたりをテーマに、なんとなくこの世界と折り合いのつかない若者たちの等身大な夜を描いたコンセプトアルバムです。
3人のキャラクターを設けて、それぞれ年齢や境遇は全然異なるし関わりも無いのですが同じ街で同じ夜空を見ていて、それぞれの目に世界はどう映るのか、というのを軸に短編映画や短編小説のようなひとつの物語になるよう紡いでいきました。
いま、CDで音楽を聴くという概念が失われつつあるじゃないですか。付随して、名盤って概念も失われつつある。
ああああ:
あ~~、"名盤"ね。確かにね。
小緑はる:
Spotifyとかのストリーミングサービスで、単曲で、という時代になりつつあるんですよね。特に若者は。・・・まあ僕らも全然若者ですが(笑)
ああああ:
そうね(笑)。
小緑はる:
アルバム通して聴くっていう体験が少なくなってるであろう時代でも何故僕らは敢えてアルバムを作るのか?っていうのを凄く考えて作ったんですよね。
ああああ:
そうそう、CDである意味みたいなところをね。
小緑はる:
それが例えばブックレットのデザインにおける表現だったり、曲順だったり各曲の間だったり物語だったりするんですよね。
最後の曲以外は全部次の曲へと繋がる仕掛けをアウトロに施してありまして、UNISON SQUARE GARDEN『Patrick Vegee』に着想を得てるんですが上手くはまってくれました。
クレジットとかの文字情報にもかなり拘っていて、ブックレットにはネットに上げてない情報が色々詰まってます。是非フィジカルで手に取っていただいて、通しで聴いていただきたい作品ですね(よろしければ是非・・・!)。
Tr.1『試験電波放送#300』について
◆解題
小緑はる:
深夜に流れてくるラジオのような、或いはアルバムの幕開けとしてのカーテンコールのような、そんな曲です。
僕らが暮らしを営む日常から物語音楽という非日常へと、ぎゅっと引き込むようなイメージを込めました。
ああああ:
このCDって全体通して抽象的な表現に寄ってて、その雰囲気を感じられるイントロダクションとして相応しい1曲になったんじゃないかと思いますね。
「こういう感じのCDやぞ」っていう。企画書段階で小緑氏からかなり細かいディレクションがありましたね。
小緑はる:
お~笑
ああああ:
笑
小緑はる:
実際のとこ、特にコンセプトアルバムの1曲目にどういう音楽を置くかって永遠の課題だと思ってて。
ああああ:
そうね~~。わかる。
小緑はる:
まあ今回は「深夜」とか「ラジオ」みたいなモチーフをメインに据えてるのでこういう曲を置きやすかったってのもあるんですけど、僕なりに説得力のある解は示せたんじゃないかという感じです。
それと、フィジカル版をご購入くださった方は既にご存知かも知れませんが、この曲に限って意図的に歌詞カードの記載を一部省略しています。台詞とかモノローグみたいな具体性を持った部分は"詩"ではないのでどうしても野暮ったくなってしまうなと思いまして。
ああああ:
載せないんだ~って最初は思ったけど、そういうことよね。
小緑はる:
加えて、視覚情報より先に聴覚情報が先に入ってきたら面白いかも、という期待もありました。
ああああ:
なるほど!歌詞カード見ながら聴く方もいるもんね。で、「あれ!?」みたいな。
小緑はる:
そうそう。CD買って再生する辺りまでの時間はまだ日常の範囲内だと思うんですよね。そこでなんとなしに歌詞カードを見ながら聴き始めてみたらいきなりそこに無い台詞から始まるっていう。
ああああ:
はいはいはいはい。
小緑はる:
やはり1曲目ですので、こういう細かい部分にちょこちょこと非日常へ引き込むフックを仕掛けてあります。
◆お気に入りポイント
小緑はる:
冒頭(再生時間0:11~0:22)の台詞部分ですね。
僕は平生なんでもないような日常風景をこよなく愛する人間でして、例えば映画やアニメでもヒューマンドラマを好んで摂取する傾向にあります。創作っていう非日常世界の中に自然にふと顔を覗かせる日常世界が好きなんです。
でもそれをいざ自身の創作に落とし込もうとすると・・・後で詳述しますが、楽曲『宝石の降る夜に』の方はかなりすんなり出てきたんです。あっちはリズムを明確に意識して作詞作曲に望んでいて、そうすると良くも悪くも使える言葉や表現がある程度縛られるんですよね。
反面『試験電波放送#300』は展開こそぱっと決まったものの、全てのパートにおいて8分とか16分みたいなリズムをわざと設けなかった。こうなると逆に自由度が高すぎて、伝えたいことがあれもこれもと溢れてしまうんです。
もっとも群像的に言葉が溢れてる感じは目指していたところではあるのですが、尺に収まりきらずぐしゃぐしゃになってしまったら音楽である意味がなくて、なのでもしかしたら全歌詞中最も推敲を重ねた部分かも知れません(笑)。
ああああ:
え~なるほどね!そう今ちょうど企画書見てたんだけど、確かに初稿と比べると結構書き直されてるね。なんか懐かしくなった。
小緑はる:
その分録音データが揃って並べ終わったときの「うわ、日常風景が出現した・・・!」っていう(笑)。
ああああ:
そんな、「野生のフシギダネが現れた!」みたいな(笑)。
まあ、おっ来たな!みたいな感じね(笑)。現れたねえ。
小緑はる:
いやそう、来たんですよ、野生の日常風景が(笑)。
感動もひとしおで、ボーカルの皆さんには感謝してもしきれませんね。
ああああ:
ボーカル曲全般そうだけど、やっぱ生の声が入ったときの"曲に魂が宿る"感じね。
小緑はる:
えぐいっすね。
ああああ:
えーぐいよね。毎回思う。
今回、台詞の割り振りもすごく上手くはまったよね。
小緑はる:
そうですねえ。この曲が作られたのって実はかなり遅い時期だったんですけど、そこで改めてボーカルを務めてくださったお三方の声の特徴や割り当てさせていただいたキャラクター性を考えて、台詞量が等分になるよう調整して。
当然すべき作業ではありますが拘って臨みましたね。
ああああ:
僕の方のお気に入りポイントとしては、もう小緑氏が言ってくれたようにやっぱりお三方の台詞部分が綺麗で素敵だよねっていうのが一番大きくて。
あとはイントロで鳴らしてるピコピコなところでね、『rainbow』のフレーズをモチーフにしてるんですけど。
小緑はる:
え?・・・ちょっと待って今気付いたんだけど(笑)
ああああ:
え、マジか(笑)。
小緑はる:
えーうわ、そうだわ!(笑)。マジか。
ああああ:
そうそう。台詞入ってからは本作の5曲目『ギターポップ・フォアキャスト(your memories will be a lot of melodies!)』のオケを流したいですっていうディレクションが小緑氏からあって、
これが『rainbow』のセルフアレンジというわけで、それを予感させるようなラジオっぽいイントロが作れたんで結構お気に入りかなって思いますね。
小緑はる:
なるほどな~!後の展開に自然に馴染んでるイントロで良いな~とは漠然に思ってたんですが、そういうカラクリがあったのかあ。
僕モチーフ引用好きなくせにアホなんで気付けないんですよねなかなか・・・(笑)。
ああああ:
(笑)。まあリズムもフレーズも若干崩してるしね、マリオ64とかが良い例だけど、上手いことやられてると気付かんよね。
◆リファレンス
小緑はる:
台詞が入る前のイントロ部分のみですが、Plus-Tech Squeeze Boxさんの『A Day In The Radio』ですね。
ああああ:
だいぶ露骨だよね(笑)。知ってる人が聴いたらニヤニヤしちゃう感じの。
小緑はる:
そうそうそう(笑)。具体的にどのくらい露骨かって言うと、ポップンに入ってるEeLさんの『777(スリースタースリーセブン)』くらい(笑)。
ああああ:
わかりやすい(笑)。
小緑はる:
台詞が入ってからは5曲目『ギターポップ・フォアキャスト(your memories will be a lot of melodies!)』のオケをラジオっぽく鳴らそうというアイデアが先行してて、ただいきなりそれだと面白くないし聴きやすくもないなと思ったので、
ああああさんの持ち味であるピコピコな感じで始まったと思いきやラジオのチャンネルがザッピングされて、みたいなイメージを出すために『A Day In The Radio』の間奏部分を参考にしました。渋谷系文脈で上手く繋がってる感じもあるかもですね。
Tr.2『光の凪にうたって』について
◆解題
小緑はる:
一晩限りの家出をした音楽少女のうたです。1番Aメロの歌詞にある「背中に張り付く夢は少し重たくってさ」というのは、ギターを背負っている様子を表現しています。
年齢的には中学生くらいを想定していて、なのでまあ、本気で家出する気もないし家族のことは大好きだし、でもちょっと喧嘩しちゃった後の夜というイメージですね。時間帯もそれほど更けてはなくて、22時くらい。
ちょっと感傷に浸ってるけど根っこには優しさがあって、爽やかで明るめな音楽を目指しました。今はちょっと一人になりたいけどきっと明日の朝には帰るから、心配させちゃってごめんね、みんな大好きだよ。みたいな。
seaside-métroさんの透明感のある歌声はまさにぴったりでしたよね。
ああああ:
めっちゃめちゃはまったねえ。綺麗に。
小緑はる:
シーメトさんの歌声って良い意味で少しだけ影のある感じがあると思ってて。
ああああ:
分かる・・・!分かりすぎる・・・!(限界オタク特有の小声)
小緑はる:
(笑)。それが同居している感じがあるので、この曲に合う素晴らしいボーカルだったと思います。
ああああ:
改めて、シーメトさんには本当に大感謝ですね。
小緑はる:
歌詞に関して、「ここ好き!」とか「今更聞けないけど実はここの意味よく分かってない」とかってあります?
ああああ:
いや好きポイントで言うと全部なんだけど(笑)、そうだなあ、「ひんやりした手触りを独り占めしたかっただけ」の意味を詳しく聞いてみたいかも。
小緑はる:
なるほど。ここは、Aメロで星の降らない静かな丘へ向かわせてるんですけど、そこにポツンと立ってる好きな喫茶店の屋根の上で少し感傷に浸りながらアコギを弾いてるんですよね。
で、屋根のレンガの手触りを感じながら自分の住む街を見下ろしてるイメージです。
ああああ:
良いなぁ・・・。なんか、こうすごく情景が浮かびやすい詞だよね。
小緑はる:
僕自身そういう詞がとても好きなので、普段からかなり意識してますね。
◆お気に入りポイント
小緑はる:
僕は落ちサビの「きっとトーストが焼ける頃には帰るよ、ほんとだよ。」がすごく気に入ってます。
音楽ってそのポピュラーさの割にかなり抽象性の高いメディアだと思うんですが、そこにこう、スッ...と具体的な情景を想起させるような一節が挟んである音楽が大好きなんですよね。
麻枝准さんとかがその辺ものすごく上手くて。『時を刻む唄』の2番サビ前の「3人分の朝ごはんを作る君がそこに立っている」とか、『Goodbye Seven Seas』の1番Aメロの「服を着替えてもしっくりこない始末」とか。
実はああああさんからデモが上がってくる前からもし落ちサビがあったらこの文字列まんま入れられるようなメロディがあったらいいなーと思ってて、実際なぜか示し合わせたようにそういうメロディーが来たので少し譜割りをいじった程度で歌詞はほぼそのまま採用できたという裏話があります。
往々にしてこういうことが起こるのですが、マジで謎。魔法があるとしか思えない(笑)。
ああああ:
えーすげーー!!(笑)。それは凄いな。びっくりしたわ今。
小緑はる:
『セーブデータとほうき星』の落ちサビも結構そんな感じですね。マスタリングを担当してくださったdaphさんも「ここ詞先じゃないの流石にあり得る??」みたいに仰ってた記憶。
ああああ:
あ~~~。言ってたね笑。
小緑はる:
余談ですが、音楽やアニメや配信者の趣味が奇跡的なレベルで僕と近い友達がいて、この曲に関して真っ先に反応したのがこの部分で、「"トーストが焼ける頃"って表現絶妙すぎるだろ・・・良い・・・」と言ってくれてかなり嬉しかったですね。
ああああ:
僕の方はー、いやこれめっちゃ良い曲なんだよなあ。
後の項でも触れるんですけどまあ中心となってるリファレンス曲があって、アルバムの企画が立ち上がるより前から「こういう曲やりたいよね~」って話をしてたんですよね。その願望をマジでめっちゃ楽しく叶えさせてもらったのがこの一曲かなって思ってます。超楽しかった。
でまあどのくらい気合い入れたかっちゅーと「SPITFIRE CHAMBER STRINGS」っていう音源がありまして。えーまあ9万円ほどするんですけど(笑)、この曲のためだけにわざわざ買ったほどなので全体的にストリングスがかなりお気に入りですね。
小緑はる:
そういやそうでしたね(笑)。ほんとにすごく透明感のある編曲に仕上がってて。
ああああ:
こういう曲でこういう弦鳴らしたい!ウオオオ!みたいなのをMIDIにぶつけまくりましたね。
あとはやっぱり小緑氏も言ってたけど落ちサビですね。僕、もともとサビ作るのあんま得意じゃなくて(笑)。というのも、Bメロとか落ちサビみたいな「後に来る美味しい展開への繋ぎの部分」を作るのがすごい楽しいんですよ。
小緑はる:
はいはいはい、なるほど。
ああああ:
特にこの曲の落ちサビは歌詞の物寂しい雰囲気を汲み取りつつ自分が込めたかった情緒みたいなのが上手いこと入れられたかなーと。
基本的にイントロから順番に曲作ってくんですけど、サビより前までがうまくいっちゃって「あ~これで何とも言えないサビになっちゃったら悲しいな。。。」って苦悩することが結構ありますね。
小緑はる:
あ~~、いや何とも言えるサビになってるんですけどね結局(笑)。
ああああ:
はい(笑)。毎回頑張ってます笑
◆リファレンス
小緑はる:
大原ゆい子さんの『星を辿れば』みたいな曲作ってみたいねーという話はアルバムの企画が立ち上がる直前くらいにしてて、ちょうどこの曲のテーマに合いそうだったので提案に含めたという経緯です。
物語的にアコギの音は絶対に入れたくて、優しくて明るくてという感じで本当にちょうどよかった。
ちなみにこういうパターンは結構あって、僕とああああさんは音楽を作っている時じゃなくても何かと隙あらば音楽の話になりがちで、「これ良いね~いつかこういうボーカル曲作りたい」という話が出たら頭の中にピン留めしておいて音楽作るときに合いそうだったらサルベージする、ということをよくやります。
作編曲が進んでいく過程でfhánaの感じも合いそうという提案がああああさんからあった記憶があるのですが、そういえば具体的にどの曲を参考にしたのか伺ってない気がします。『World Atlas』とか?
ああああ:
あ~~確かにそんなことを言った気もする程度の朧げな記憶なんだけど、空間の広さ的には『星屑のインターリュード』とかを参考にした気がしないでもないかな・・・?テンポ感も近いし。
小緑はる:
なるほどな~、確かに『星屑のインターリュード』ってイントロからかなりストリングスストリングスしてますもんね。
ああああ:
まあでもメインはやっぱり『星を辿れば』かな。
兎角この曲が大好きで、透明感とかストリングスの煌びやかな感じを参考にしつつ、小緑氏の詞の印象もひっくるめつつ曲に落とし込んでいったって感じでしたね。
小緑はる:
改めて『星を辿れば』、ほんと名曲ですよね。
『リトルウィッチアカデミア』という僕の大好きなアニメのTVシリーズ1クール目のEDで、アニメの雰囲気にもとても合っていて。
ああああ:
僕はTVシリーズ見れてないんだけどED映像は見てて、これ映像も含めてめちゃめちゃ良くないですか?という。一枚一枚の演出がすげえ魅力的なんだよなあ。
小緑はる:
いやほんとに。エフェクト作画は平岡政展さん、一枚絵は芳垣祐介さんが手掛けていてお二方とも本当に大好きなアニメーターさんなのですが、多分ああああさんが惹かれたのはどちらかと言うと芳垣さん成分の方なのかなと。
僕は芳垣さんの画集ぜんぶ持ってて中野の個展にも足を運んだのですが、普段のスケッチの筆致とかお父さんへ宛てた絵葉書とか、あらゆる部分から優しい人柄が伝わってくる方です。
Tr.3『祈りも魔女も眠る頃』について
◆解題
小緑はる:
失恋してかなり病んでいる女の子のうたです。可愛くて明るめな曲調でありながら歌詞には未練や皮肉がたっぷり詰まっているような音楽を目指しました。
年齢は高校生~大学生くらい、時間帯は午前2時頃を想定して作りました。嫌なことがあって眠れないときに脳内を渦巻く雑念をそのまま全部カラフルに吐き出しているイメージです。
Aメロで甘々な思い出を振り返り、Bメロでその全てが真っ暗な精神世界へと閉じていき、サビで自分を否定するあらゆる世界へ祈りと呪いを捧げる、という構成になってまして。僕は『魔法少女まどか☆マギカ』シリーズが大好きなのですが、あの魔女化してしまった少女の感じが近いかも知れませんね。
繰り返される「ああ、なんて情けなくてかっこ悪くて、可愛くない僕!」というフレーズは「こんなに惨めで可愛い私をもっと見て!」という感情の、最大限に皮肉を込めた裏返しのつもりで表現していました。
ああああ:
なーるほどね!完成までに一番紆余曲折あった曲というのもあって、僕的に歌詞のイメージが一番湧きにくかったかなー。
『光の凪にうたって』が素直な内容だったのに対してかなり詩的というか、こう頭ん中のゴシャゴシャした感じをばーっと吐き出してる歌詞なんだろうなあって漠然と考えてはいたけど。
小緑はる:
実際のところ、未練と皮肉を込めて裏返しな表現をし過ぎたので全曲中最も解釈が難しい曲になってしまったと思います。。。。
でもここまでしなきゃ人間の底なしに暗い大事な部分がどうしても伝わらないんだ頼む・・・!みたいな気持ちで作ってましたね(笑)。
ああああ:
「千年越しの戴冠式がオレンジを閉ざす」っていう歌詞の意味はいまだによくわかってなかったりしますね。
小緑はる:
あーー。。ここは、割と先に述べた構成の通りなんですが、オレンジって明るい色じゃないですか。それが輝かしい思い出を表現してて、久々のダークな感覚によってどんどん閉ざされていくようなイメージですね。
ああああ:
あーーーーなるほどね!そう聞くと歌詞が全体的にかなり掴めてくるなあ。あ~今かなりスッキリしてます。
小緑はる:
それは良かったです。
僕が結構極端に作品本体の外での追加の説明をしたくないタイプなので、制作中でも「この一節はこういう表現ですよー」っていう細かな説明を自分から敢えてすることがなくて。
まあ別に聞かれたらこうやって普通に答えるんですけど、この姿勢が制作の妨げになってしまっていたかもなあという申し訳ない気持ちがずっとありますね。。。
ああああ:
いやいや、まあ、分かるよ(笑)。
僕もあんまり自分の曲語りをすることはなくて、なんでかって言うと音楽という媒体の抽象性に魅力を感じて音楽やってるので。追加で語りすぎちゃったりしちゃうと魅力たる抽象性を削いでしまう気がするんですよね。
でもまあ、難しいよね(笑)。
小緑はる:
難しいすね・・・(笑)。
ああああ:
よくDTM始めたての子は「聴いてもらう機会があんまり無い」って部分で悩んじゃうんですよね。実は音楽って分かりやすいエンタメ性はそんなに無くて。視覚情報も無いし。
実際のところ僕も、例えばアルバム『宝石の降る夜に』は作詞で小緑氏の力を借りたりボーカルさんの力を借りたり、イラストレーターさんとか映像屋さんとか、色々な方々の力をお借りして完成したものなので、なるべく多くの人の目に留まるよう策を練ってリリースしてますね。
小緑はる:
ところでSennzaiさんと言えば圧倒的な歌唱力で綺麗に歌い上げるイメージが強いですが、ueotanさんの『Noel』という曲を初めて聴いたとき、こんな可愛い路線もいけるんだ!と衝撃を受けまして。
Sennzaiさんにボーカルをお願いできることがあるなら絶対にこっちにしたいと予てから思っていたので、制作中も普通にファン目線というか(笑)、「Sennzaiさんの可愛い路線の曲久々にきた!?!?!」みたいな感じでしたね。
ああああ:
良い(笑)。「ねえ待ってよ、その子もきっと嘘つきだよ。」の部分とか特にSennzaiさんのボーカルがすごくうまくはまってましたね。
◆お気に入りポイント
小緑はる:
ラスラビ終わりの「ねえ待ってよ、その子もきっと嘘つきだよ。」が、メロディも歌詞も編曲もすごくお気に入りです。
解題で述べたように皮肉たっぷりな曲ですが、最後の最後で遂に素直で裏返しでもなんでもないシンプルな未練が零れてしまうという非常に人間らしい感情の動きが再現できた気がしてます。
ここ、実はデモ段階では4小節まるごと存在しなかったんですよね。僕はラスサビの説得力に異常にこだわってしまう癖があって、普段なら作詞家としての提案程度に留めるところを何故か作曲者も兼ねることになってた権限(?)でねじ込みました。
ああああさんもこれに合わせて完全に正解な編曲を提示してくださって、良いラスサビになったと思います。
ああああ:
いやあ恐縮です。
小緑はる:
この曲は色々あってまずオケだけああああさんに作っていただいて、そこに歌詞を乗せて、それに合わせてメロディを書くという、僕とああああさんにとっては初めての試みをした曲なんです。
で、歌詞を考える際に結局譜割りも一緒に考えないと文字数のボリューム感が分からなかったのでああああさんに全修していただく前提でなんとなーくメロディを考えて、
ああああ:
出た出た(笑)。
小緑はる:
いや出た出たじゃないけど(笑)。考えて一緒にお渡ししたのですが、結局Bメロとサビはほぼ原形が残ってしまって「ええ・・・?」となるという(笑)。
僕はそもそも作曲経験がゼロに等しいレベルですし、何よりああああさんのメロディの方が5000倍魅力的だと思っているので。
ああああ:
まあ、とか言ってますけどね(笑)。
この曲に限らず、制作過程がいつもと異なるときは小緑氏が作詞の段階で思い付いたメロディを割とそのまま採用してまして。チュウニズム公募の『魔法仕掛けのホログラム』とか、楽曲『宝石の降る夜に』とか。
もちろんメロディにも良し悪しはあるんで僕の方で多少いじったりはするんですけど、作詞をした人がメロディを付けてるっていうのもあって口ずさんだときの語感がすごく良いんですよね。
だから、この歌詞にメロディを付けるんだったら僕でも概ねこういう音価と音程で作るかな、というのがある程度正しい形で組まれてるからこそ採用してるんですよ。
小緑はる:
なるほど・・・。
僕は理論とか全然分からなくて、普段からただただ好きでボーカル曲を沢山聴いているだけで、100%感覚頼りのメロディなんですがそういう感じなんですね。
ああああ:
僕も僕で感覚に頼って作曲してる部分は多分にあって、小緑氏の中で"こういう音価・音程でこういう歌詞だと気持ち良い"っていう感覚がきちんとあるからこそかな、と僕は思ってます。
ああああ:
めちゃめちゃ作曲オタク的なお気に入りポイント語っていいですか(笑)
小緑はる:
全然大丈夫ですよ、むしろ僕が語れない部分なので(笑)。
ああああ:
Bメロで結構気持ち悪いコード鳴らしてるんですよ。
Caug on Dっていうコード進行なんですけど、某ピアノ系YouTuberや田中秀和さんが好むことでも知られる"ブラックアダーコード"ってやつですね。
小緑はる:
ああ、なるほど(笑)。
ああああ:
歌詞の感情が揺れてて不安定な部分を上手いこと響きもリンクさせて表現できて、良い流れにできたかな~と思っててかなりお気に入りですね。よく聴くとね、かなり気持ち悪い音鳴ってるんで聴いてみてください。
小緑はる:
へえー。そういえば歌詞と同時にお渡ししたメロディの時点では「可愛くない僕!」の最後の「く」の音程が考えようによっちゃスケールから外れてないけど普通に聴いたら不協和ってるみたいな感じだったじゃないですか。あれもある意味自然な気持ち悪さだったのかも知れないなと思いました。
ああああ:
あ~そんな感じだったね!そうかも。
◆リファレンス
小緑はる:
最終的にはああああさんがご提示くださったOfficial髭男dismの『Universe』でしたよね、確か。
病んでる設定というのを編曲面からはあまり悟られないようにしたかったので、夜っぽくてキラキラなイメージは残したままいい塩梅に落ち着いたんじゃないかと思ってます。
ああああ:
そうやねー。色々試してみて結局僕が好きなようにオケ作ってみることになったので、『Universe』の夜っぽい寂しさがありつつワクワクするような雰囲気を参考にして。
まあこれがまさに皮肉っぽいニュアンスに繋がってるとも思ってて、僕の好きな雰囲気に全体の編曲をまとめられたのでお気に入りですね。
小緑はる:
企画段階では漠然ともっとふわふわ系の音楽しか思いつかなくて、常盤ゆうさんの『CHOCOLATE PHILOSOPHY』やsasakure.UKさんの『カムパネルラ』辺りを提示していたのですがうまくはまらず。。。その節はお手数をお掛けしました。。
ああああ:
いやいや(笑)、全然大丈夫です。
所謂「ポガティブ」的な、曲は明るいけど歌詞は暗いみたいなのって(どっちも暗いケースに比べて)割合素直に皮肉のニュアンスを出せると思ってて、僕自身そういう音楽が大好きなので。
小緑はる:
実際いい落としどころにはなりましたよね。
ああああ:
曲こんなに明るいのに、サビで「切り裂けば楽になるのかな♪」とか言ってるもんね(笑)。この感じ凄く好きなんだよなあ。
小緑はる:
ああああさんの敬愛するOSTERさんの音楽ってまさにそういう感じですよね。全部ではないですけど、例えば『恋色病棟』とか。
ああああ:
そうだね!分かる。
Tr.4『宝石の降る夜に』について
◆解題
小緑はる:
あと一歩踏み出したらそのまま欄干を乗り越えて命を絶ってしまいそうな人が夢世界へ迷い込み、本当にあと一歩のところで生きる理由を思い出して現実世界へ戻っていくうたです。年齢は25歳くらい、時間帯は午前4時くらいのイメージです。
欄干で目を閉じて喧噪が突然途絶えたと思えば既にそこは夢世界で、バグった昔のRPGみたいに現実世界で見てきた風景がぐしゃぐしゃのマップチップになって広がっている。
どうやら上空を飛び交うレーザービームの仕業らしい。それが自分の作った心の壁であることを内心分かっていながらも無気力な放浪を続けていると、死んだはずの愛猫の影がちらつき始める。
その姿はさながら何かを案内しているようで、何かは分からないけど手を引かれるように足跡を追いかけていると思い出すのはあの息苦しい現実世界のことばかり。君はなんでこんな道を案内するのだろう、歩き疲れて遂に足を止めていた。
次第に小さな足音も聞こえなくなり、寂しさに圧し潰されそうで、呼吸をする勇気すら。
そこへ世界を真っ二つに割るほどの雷と雨。あまりの衝撃にうっすらと目が開き、最後かも知れない雨音に耳を澄ましてみる。
ああ、あまりにも聴き慣れた、あまりにも使い古された音楽。
それを聴いて思い出すのは、あんなに輝かしかったはずの現実世界のことばかり。息苦しいけど、悪魔だらけだけど、日常のどこかにきらりと光る一瞬は沢山あって。
なんで忘れてたんだろう。きっと君はこれを思い出させるために、そのもふもふの毛並みを携えて天国から少しだけ降りてきてくれたんだね。
君が悲しんでくれてしまうから、まだ生きてみるよ。
夜が好きだ。桜の花びらが微かに薫る、こんな夜。
そんなうたです。
ああああ:
あ~・・・この曲語りたいこと多過ぎるんだよなあ(笑)。いやあ、人生って大変じゃないですか。
小緑はる:
大変ですね。ほんとに大変。
生きたい理由があるのに死にたい理由もあって、でも死ぬのって難しいから惰性で生きてしまっているみたいな部分もあって。
あくまで個人的な意見なんですけど、僕と同じような感覚を持っている全員に対して「頑張ればなんとかなる」とか「時間が解決してくれる」とかって絶対言いたくないんです。
ああああ:
分かりすぎる。。。。下手すれば最低最悪の言葉になりかねないよね。
小緑はる:
そうそう。善意で言ってくれてるって分かってても駄目なものは駄目で、少なくとも自分はそういう発言を絶対しないように心掛けてるんです。
だから、そうじゃない言葉を紡いで音楽にして、僕はなんで生きてるのかっていうことを提示してみて、それで少しでも救われる方がいたら、という気持ちで作った曲でしたね。
ああああ:
そうだねえ。僕も僕で根っこが凄くネガティブな人間なのでそれこそ有り体に言ってしまえば本気で死にたいって思っちゃったことは何度もあって、なので僕らなりの死生観を表現した曲ですね。
小緑氏が教えてくれたアニメの中でも特に好きなのが『N・H・Kにようこそ!』で、ヒューマンドラマの傑作なんですけど、その最終話で主人公・佐藤達広のモノローグとして語られる「結局のところ、問題は何ひとつ解決しちゃいない。俺たちは、これからも毎日、ダメだダメだとつぶやきながら生きていくんだろう。だけど、そう、いつまでもつかは分からないけど、出来る限りはやってみるさ」っていう言葉がすごく好きで。まあみんな好きだと思うんだけど(笑)。
小緑はる:
分かるなあ。名言ですね。
ああああ:
この曲の企画が上がった段階で、要するにそういうことを表現したいんだろうなあって僕は勝手に思ってましたね。
小緑はる:
あー、かもしれないですね。死ねない理由の物語がドラマチックでなくても肯定したい、というか。周りからは地味に見えても、当人はずっと必死に生きてるんですよ。
ここで声が重要になってくるのですが、ボーカルの森乃澪さんは声の演技がとても魅力的な方で、胸の内にすごく大きな熱量を秘めている方でもあります。
曲が長いし、心の動きを明確に表現したかったのでかなり細かくて量の多いボーカルディレクションを出させていただいたのですが、その全てに応えてくださって本当に素晴らしい曲になりました。
イントロの「夜が好きだ。」とアウトロの「夜が好きだ。」を聴き比べてみてください。それだけでも十二分に魅力が伝わると思います。
ああああ:
マジで分かる~~~・・・・。。。このニュアンスの差の付け方、マジでえぐい良いんだよなあ。
ああああ:
これは本当に語りたいだけなんやけど、何話だっけ、佐藤がガチで飛び降りようとするところあるじゃないですか。
小緑はる:
あー、無人島の崖のシーンですかね。
ああああ:
そうそう!あのとき山崎が言った「ドラマチックな死は、僕等には相応しくありませんよ」って台詞もすごく好きで。阪口大助さんが声あててる山崎薫なるキャラマジで良いんだよなあ。
小緑はる:
『銀魂』の新八もそうですけど、ギャグ路線のキャラかと思いきや実は芯の通った考え方を持ってるタイプのキャラクターにすごく合うんですよね、阪口大助さんって。『CLANNAD』の春原とか、『氷菓』の里志とか。
ああああ:
あーはいはいはい。この人がねー、良い台詞言うとすごく沁みるんだよなあ。
◆お気に入りポイント
小緑はる:
「雑踏、送電線、信号機、ねこ、ねこ、カラフルな女の子、映画館、鉄橋、東横線、コンビニで買ったあずきバー、」ですかね、やっぱり。僕がこよなく愛する現代日本の日常的な都市風景の全てが詰まっている気すらします。
一番最初に完成した部分であり、一瞬で完成した部分でもあって、すごく自分らしいなと思います。要するにこの曲のコアであり、僕のコアなんですよね。
ああああ:
ぽいよね。本当にそう思う。
小緑はる:
それがTumblrみたいにぱらぱらとアウトプットされてるのがまた僕らしくて。
じん(自然の敵P)さんの『日本橋高架下R計画』という名曲があるじゃないですか。あれのMVみたいな感じと言えば伝わりやすいですかね。身の回りで起こる全ての物事に垣根はなくて全部同じ平面上で繋がってる感じ。
なんでもないようなことですが、そんな世界の理が何故か愛おしくてたまらなくて生きているんだと思います。
ああああ:
良いなあ。やっぱり一番大事にしたい詞だったから一番最初に作った感じ?
小緑はる:
そうですね。ここはもう、「こういう感じの曲作りたいよね~」って話が上がってた段階からもうメモってあって。
イントロとかはもっと全然後にできたんですよね。作詞作曲をするにあたってああああさんから8小節のリズム隊とそれっぽいコードの繰り返しだけいただいて、全体の展開を作って、という辺りでようやく。
ああああ:
あーそうだったんだ。なるほどね~。
ああああ:
この曲はマジで時間かけて完成させた作品で、各人のこだわりたいところをなるべくこだわり抜いた曲なので全部お気に入りなんだけど、強いて言うなら「綺跡が降る」から「その瞬間」までの部分の作編曲ですね。
最後の方まで悩んだ部分だけど、その甲斐もあって最終的に色んな風景がフラッシュバックして溢れ出してくるような表現に上手いこと行きついたかなーと思っててすごくお気に入りですね。
あとやっぱり森乃澪さんの声が本当に良くて、「今度、また会えるかな。あの頃みたいに元気かな。」の胸がきゅっとなる憂いの表現がすごく好きですね。「今夜、何してるかなあ。」の方との対比的にもうまくはまってて。
小緑はる:
表現できる感情の段階がすごく多いんですよ。僕なんかはたぶん6段階くらいしか無いんですけど、そこへいくと森乃澪さんは36段階ぐらいあるみたいな。
しかもそれを適切に引き出して各パートに適用してくださったので、本当に細かい表情の変化が、企画段階の僕の想定を遥かに上回る形で実現されましたね。
ああああ:
声だけで表現するっていうことの難しさと森乃澪さんの凄さね。本当に。
高校のとき演劇部に入ってたので多少は演技の経験があるんですけど、演劇だと自分の身体も含めて表現になるのでちょっとはやり易かったんだけど、その活動の延長で声優の真似事みたいなことをやってこともあって。
それがね、自分で聞いて笑っちゃうぐらいめちゃめちゃ下手なのよ(笑)。
小緑はる:
人間のコミュニケーションって、身振り手振りとかのノンバーバルな部分がかなりの割合を占めてるって言いますしね。
メロディがあればノンバーバルに踏み込めるんで感情の起伏はつけやすくなったりすると思うんですけど、『宝石の降る夜に』みたいな曲はほとんどの部分でメロディが存在しないので。本当にすごいし本当にお願いできて良かったですね。
◆リファレンス
小緑はる:
この曲に関しては作詞に限らず作編曲的な部分も多くを担当させていただいたので、僕が語ることが多い気がしてます。
で、まあリファレンスは□□□の三浦康嗣さんが手掛ける全ての楽曲ですね。ただ、こういうのをやってみたいなと思ったのはイヤホンズの『記憶』がきっかけでした。□□□の音楽は昔から大好きだったんですがこれを女性ボーカルに置き換えようという発想にならなくて、『記憶』を聴いたときに「できるんだ!!」と思ったんですよ。
今年も三浦康嗣さんは中島愛さんの『Over & Over』や東山奈央さんの『off』など、□□□の音楽を軸に女性ボーカリストへ楽曲提供を行っていて「あーできちゃうんだできちゃうんだ」みたいな。
そっくりそのまま真似ても意味無いしなあとは思ってたんですが、よく考えたら□□□の音楽は若者の日常を描くことに徹しているのでエモとか幻想世界へは行かないんです。僕はちょうどエモとか幻想寄りのことができるし丁度いいなと。
ただ、ここ割と重要なんですけど、ラップっぽく歌うことに関して、□□□はルーツがヒップホップなので全然アプローチが違うんですよ。『宝石の降る夜に』の台詞部分はたぶん小沢健二さんとかの影響がかなり大きいです。
ああああ:
あ~~~~確かにそうだわ。そうなんだよな、これヒップホップの文脈の歌詞では全然ないんだよな。
□□□っぽいけど□□□っぽくなくて小緑氏らしい歌詞にすごいうまく落とし込んだな~とは思ってたけど、そこの接着剤的な役割にオザケンがいたんだなあ。
小緑はる:
そうそう。□□□っぽいことをやってるかと思いきや、歌い方とかリズムの置き方とか言葉の選び方は実は全然違うんです。
たぶん、探してみれば露骨にオザケンっぽい言葉はあると思いますよ。fhána『愛のシュプリーム!』で言うところの「ある光」並に。これ伝わる人にしか伝わらんと思いますが(笑)。
ああああ:
一応編曲面のリファレンスだと、サンプリングの入れ方のニュアンスとか音の感じはかなりイヤホンズ『記憶』を意識してますね。あと改めて□□□の曲ばーっと聴いたかな。
ただ、やっぱりヒップホップ文脈の音を入れるのはちゃうかなーって感じはなんかあって、結果として僕らしい編曲にまとまったかな。
小緑はる:
そうだったんですね。まあ□□□ってバンドですけど僕らバンドじゃないですしね(笑)。
ああああ:
そうね。そもそもね(笑)。
ああああ:
□□□も小緑氏に教えてもらったアーティストで、これもマジで語りたいだけなんですけど、『いつかどこかで』とかいう曲超良くない?
小緑はる:
いや超良いんですよ。なんというか、大人たちが歌ってるのにすごく無邪気なんですよね。
シンプルに物を創ることに対する喜びに満ちてて、邦ロック文脈としてはめちゃめちゃ長い曲なんですけど何回聴いても飽きないし、いつ聴いても最後まで聴いてしまうパワーがあるんですよ。
ああああ:
そうそう、歌ってる演者さんたちがみんな生き生きしてるんだよね。
「なんで切らんと~~?そっち先切ってっちゃー じゃあ一緒にね?いくよ?ほんと切るよ?せーの!・・・もうなんなん!やっぱね~!」のとことかめっちゃ好き。かわいい。
Tr.5『ギターポップ・フォアキャスト(your memories will be a lot of melodies!)』について
◆解題
小緑はる:
いよいよラスト。ラジオでふと流れてくるヒットナンバーのような、或いは喫茶店の空気を僅かに震わすラウンジミュージックのような、或いは映画のスタッフクレジットと共に流れる底抜けに明るくて前向きなエンディング曲のような、そんな作品です。
かつて僕が作詞、ああああさんが作曲を担当した『rainbow』という曲のセルフアレンジでして、喫茶店でよく聴く流行曲のボサノヴァカバーみたいな感じでポスト渋谷系の本質をうまく突けた気がしてます。
これはポスト渋谷系というジャンルが抱える病だと思ってるんですが、ポスト渋谷系のオシャレエッセンスがあまりにも浸透しすぎていて、なんとなくポスト渋谷系の真似っこをしようとしても意外と普通のポップスになってしまうんですよ。
ポスト渋谷系が単曲の成熟よりジャンルとしてのシーケンスの成熟を目指したことに注視すると、オマージュなどによる要素の継承が大事なことが分かって、となると今の僕たちに出来る範囲としては代表曲の『rainbow』をセルフアレンジするのが一番「それっぽい」し、「っぽさ」こそがやっぱり渋谷系の本質なんですよね。『rainbow』のルーツにはwacさんやOSTERさんといった渋谷系の文脈を踏んできている方々がいて、さらにその要素を継承しているのでかなりそれっぽくなったんじゃないかと思います。
ボーカルは原曲に引き続いてseaside-métroさんに担当していただきました。ジャンルが変わってもやはりシーメトさんの持つ透明感がこの曲に最も合ってます。
『光の凪にうたって』『祈りも魔女も眠る頃』『宝石の降る夜に』でそれぞれ主人公に据えた子たちはそれぞれ違った境遇にこそありますが同じ世界で同じ夜空を見ていて、そのバックグラウンドでこんな曲が流行ってて、聴きやすくて、心のどこかで支えになってくれていたら嬉しいな、というイメージです。
ああああ:
所謂ボーナストラック的な立ち位置で、この世界のラジオやテレビでよく流れる架空の人気アーティストがいて、という感じだね。
小緑はる:
そうですね。ササキトモコさんが原案を手掛けた名作ゲーム『ROOMMANIA #203』シリーズのセラニポージに着想を得ています。
◆お気に入りポイント
小緑はる:
追加部分のメロディだったり歌詞だったりアレンジだったり色々あるのですが、一番はラストの"little smile"以降(再生時間2:36以降)のギターソロですね。
ああああ:
あ~~~ね!!めっっっちゃ良いよね!!
小緑はる:
これは演奏してくださったカミヤヒロトさんに「こういう展開で、ここ以降はもう好きなようにやっちゃってください!」的なオーダーをさせていただいたんですが、本当に最高なギターがかき鳴らされて返ってきまして。
なので言っちゃえばラストだけ渋谷系ではないんですよね(笑)。
ああああ:
それは正直わかる(笑)。けど、これでいいんだよなあ~。
小緑はる:
そうそう。これが良いんですよ。アルバムの最後を飾る曲としてすごいキラキラしてて爽やかで、前向きになれるようなっていうのを目指したかったので本当にぴったりでした。
アニメや映画のエンディングって基本的には落ち着いたものが多いですけど、たまにある底抜けに明るいエンディング曲がめっちゃ好きで。『リトルバスターズ!』の『Alicemagic』とか、『まちカドまぞく』の『よいまちカンターレ』とか。
ああああ:
あ~~~~分かる!
小緑はる:
例の友達がこの曲聴いてるとき、「今あれだもん、『宝石の降る夜に』までで大きな物語が終わって余韻に浸ってるときに映画館でクレジット見ながらすげえ明るい曲が流れてるやつ、完全にあの状態」って言っててすげえ嬉しかったですね。
ああああ:
僕の方はそうだなー、とりあえず追加部分全部良いよね。
特に歌詞含めて原曲の時には表現できてなかったことが表現できたのがすごく良いなって。
小緑はる:
そうですねえ。だいたい2年強経ってて、当たり前ですが考え方にも境遇にも変化があって。
『rainbow(smile again)』を作ったときは敢えて追加歌詞を作らずに「ららら」だけの新規歌唱を提案して、それはそれですごく良いロングver.が作れたなという実感はあったんですが、今思えば新しい歌詞が思いつかなかったというのも事実な気もしてるんですよ。
それが編曲のおかげもあってこういう形になりましたね。
ああああ:
"Keep loving tonight,"の辺りは僕のメロディ先行で歌詞つけてもらったけど、アウトロ(再生時間2:36以降)って小緑氏のメロディなんだよね。
小緑はる:
そうですね。デモいただいたときにここでも僕のラスサビこだわり癖が発動してしまって(笑)、ラスサビの展開大改造して歌詞と、だいたいこんな感じでってメロディを提案させていただいたんですよね。
んでそこにハモり乗っけていただいて、編曲していただいて、っていう。
ああああ:
そーーうだねそうだね!そんな流れだったわ。いやこれはナイスこだわりですね。めちゃ良いアウトロになったと思います。
そしてこの曲ひいてはこのアルバム全体を通して一番気に入ってるポイントがあって、これは完成時に小緑氏と語ったことでもあるんだけど、全曲通しで聴いたときの『ギターポップ・フォアキャスト』の説得力がマジですごいんですよ!
小緑はる:
そうそうそう!『宝石の降る夜に』で「おあぁ.......」ってなった後に流れ出す『ギターポップ・フォアキャスト』のイントロがもたらす開放感がえぐくて。
ああああ:
単曲で聴いてもすごく良いんだけど、流れで聴いたときのなんかすごく晴れやかな気持ちというか。
もちろんそういう印象を与えるように考えてアルバムを作ってはいたんだけど、いざ聴いてみると「こんなに上手くはまるか!」みたいな、自分で作った楽曲群ではあるけど通しで聴いたときの感動がやたら凄かったんですよね。
最初の方で語ったことでもあるんだけど、いまの音楽体験ってストリーミングサービスが中心なのでCDを通しで聴くっていう文化だったり「曲順」って概念すらも希薄になりつつあると思ってて、やっぱり自分でCD作るならその辺りは今後も大事にしたいなあ、と改めて思った瞬間だったりしましたね。
小緑はる:
様々なセクションの方々の尽力のお陰で、目指していた「通しで聴いてほしいCD」が本当にガチッと組み上がったのが『ギターポップ・フォアキャスト』完成の瞬間でしたね。
ああああ:
一曲一曲がどれもすごく良い曲だしお気に入りなんだけど、いや~マジでな~~やっぱり通しで聴いてほしいんだよな~~!自分でめっちゃ喰らったもん(笑)。
CDを通しで聴いてくださった方は多かれ少なかれこういう印象を抱いてくれたかな、って思いますよ。
小緑はる:
ですねえ。良いCDになりましたよ、ほんとに。あれ、なんか上手いことまとまってますかね、これ(笑)。
ああああ:
なんかね(笑)。上手いことまとまったかもしれん笑
◆リファレンス
読者諸賢はお分かりかも知れませんが、なんか綺麗めにまとまって満足してしまったのでリファレンスを語るのを完全に忘れていました。もっとも、基本的にはあまり変なことはせずに模範的なポスト渋谷系を目指したのであんまり語ることでもないです。一応ざっくりとしたリファレンスは以下のような感じでした。
yu_tokiwa.djw merge scl.gtr『murmur twins(guitar pop ver.)』
セラニポージ『スマイリーを探して』
カラスは真っ白『みずいろ』
今年良かった曲5選ずつ(絞れるはずないんですけどね)
見出し文はメイドラゴン各話サブタイトルのパロディです。どうでもいいですね。
完全に僕もああああさんも『宝石の降る夜に』とは関係なく喋りたいから喋ってるだけの項ですが、ああああさんの策略(?)により意外な着地点を迎えました。よろしければもう少しだけお付き合いください!
小緑はる:
えー、という訳で絶対に絞れるわけがない今年良かった曲5選ずつですが(笑)。
ああああ:
いや、そう、絞れる訳ないのよ(笑)
小緑はる:
でも僕らがやりたいのでやります!!まあいつも喋ってるようなことではあるんですが。
ああああ:
完全に俺らがやりたいだけのやつやね(笑)。年末だから改めてね。
◆1曲目
小緑はる:
ここまででめっっっちゃ語ってしまっているのでちゃっちゃとやっていこうと思います。マジで終わらないので(笑)。という訳でまずは僕の方から1曲目。
東京スカパラダイスオーケストラの『会いたいね。゚(゚´ω`゚)゚。 feat.長谷川白紙』です。
ああああ:
出た出た(笑)。
小緑はる:
アルバム『SKA=ALMIGHTY』収録曲ですね。スカパラが近年色んなアーティストとコラボしまくってるのはご存知でしたっけ?
ああああ:
そうやね。色々やっとるよね。
小緑はる:
その中でもやっぱり、互いの個性が一切削れていないというか。
マルチネ単位で聴いてる分僕の方が少し早く知ったかな?という肌感ですが、たぶん僕らはそれなりに初期から長谷川白紙さんを追ってると思います。昨年リリースされた『夢の骨が襲いかかる!』は"名盤"という概念が失われつつある今だからこその屈指の名盤だと思ってまして、まだ余韻も醒めやらぬ頃に差し込まれたのがこの曲で。
『シー・チェンジ』が落ち着いた曲調だった分、『会いたいね。゚(゚´ω`゚)゚。』に関しては「長谷川白紙の音楽性にドタマかち割るくらい底抜けに明るいポップスを乗算したらこうなるのか!!」っていう凄まじい衝撃がね、もう。
ああああ:
ね!!長谷川白紙さんをフィーチャーするらしいっていう話を聞いた時点で「いやどうなるの!?」みたいな、想像ができなかったんだよねまず(笑)。
有り体に言えば長谷川白紙さんって音楽的にかなり難しいことをやってて、反面スカパラはキャッチーでエネルギッシュさが売りな訳で、どう融合するんだって感じだったんですが結果としてちゃんとスカパラの曲だしちゃんと長谷川白紙さんの曲で、合作としての完成度がものすごい曲ですね。
小緑はる:
どこを誰が担当したのかっていうのがすごくわかりやすい感じで個性が出ていながら完全にひとつの曲としてまとまってるのが凄いですよね。
ああああ:
そうなんだよな~~あれだけ個性発揮してるのに長谷川白紙パートが全然浮いてなくて。特にCメロがめちゃめちゃ好きですね。
小緑はる:
あの浮遊感はほんと長谷川白紙さん特有だし、歌詞的な浮遊感がありつつ長谷川白紙さんの言葉選びではあるんですが前にガンガン進んでいく感じもあるのがすごく良いですね。
今年の長谷川白紙さんは合作のリリースが中心だったかなと思ってて、こないだ出た『ユニ』もものすごく好きなんですが個人的な今年のベストはこれですね。
ああああ:
色々持ってきましたが、とりあえず僕の1曲目はARuFaさんの『さんさーら!』になってきますね。
小緑はる:
おお~やっぱりそこに落ち着くんすね!
ああああ:
これはほんとマジでめちゃめちゃ聴きました。
インターネット面白人間として一生楽しいことを発信し続けてるARuFaさんが歌ってて、作編曲を田中秀和さんが手掛けてて作詞がピノキオピーさんっていうね、とんでもないメンツで。
小緑はる:
ピノキオピーさんとARuFaさんって昔から仲良くて、『さんさーら!』ってARuFaさんのキャラソン企画のひとつな訳ですがその第一弾の『こんにちは、ARuFaです。』は作詞作曲編曲全部ピノキオピーさんなんですよね。
こういう趣味全開な人選なところも好きです。
ああああ:
僕が媒体関わらず好きになっちゃう作品のすごく大きな共通項として「人間賛歌」があるんですよね。椎名林檎さんの『人生は夢だらけ』とか月ノ美兎さんの『アンチグラビティ・ガール』とかね。
人生酸いも甘いもあるけど、どんな楽しみもどんな苦しみも自分自身でしか味わえないものであって、そういう全てを背負ってほんの少しでも前向きに生きていければいいよねっていう作品がすごく刺さる傾向にあって、これも分かりやすくその中の一曲だなっていう感じですね。
ARuFaさんって、変人じゃないですか(笑)。
小緑はる:
そうですね笑
ああああ:
それも人生を楽しむことに比重を置きすぎてる変人なんですよね笑。その人柄とかキャラクター性を曲のメッセージ性として重ねてる歌詞がすごく好きなんですよね。田中秀和さんのポップで奇妙な作編曲の感じも上手くはまってて。
ピノキオピーさんって作詞めちゃ上手くないですか?
小緑はる:
僕はピノキオピーさんのファンずっとやってるので言わずもがなという感じではありますが、ピノキオピーさんっていつだったかのインタビューで「詞が書きたいから曲を作ってる」ということを仰っていたほどに詞が先行する方なんですよ。だからこそ詞に強いメッセージ性が宿りがりだし、それこそ人生にまつわる曲がすごく多いんですよね。
それはある意味人によっては敬遠されちゃう要素かなという風にも思うんですが、『さんさーら!』はかなり聴きやすい部類で。そこも良いですね。
ああああ:
ウィットに富んだ表現で物事の本質を突くよね。
『さんさーら!』だと「街中みんなスルーしてたゴミをつっついてみたり」っていう歌詞とかすごくARuFaさんらしくて好きで。
小緑はる:
ARuFaさんって、有名人だから面白いことが沢山起こるっていうのはあるとは思うんですけどもちろんそれだけな訳がなくて、そもそも普通みんながスルーしちゃうようなことを見逃さないんですよね。
実は僕らの日常にも、気付いてないだけで面白いことって無限に転がってるんですよ。そこに気付けるのがARuFaさんの才能ですよね。
ああああ:
そういう在り方がサビの後半ですごくシンプルな言葉で表現されてるのがすごくぐっときちゃいますね。
小緑はる:
あー。サビの前半が割とナンセンス寄りなんですが、そことの対比も良いですよね。
ピノキオピーさんの曲全般に言えるんですが、ここぞってところでハッとさせるような一節を差し込むのが本当に上手くて。それが遺憾なく発揮されてて僕も大好きな曲ですね、『さんさーら!』。
◆2曲目
小緑はる:
ルコア(高橋ミナミ)、真ヶ土翔太(石原夏織)の『Hey, lad!』です。
ああああ:
あぶねーーー!!(笑)それねー、あぶねえ(笑)。
小緑はる:
まあそうなりますよね(笑)。
メイドラゴン2期のキャラソンで、作詞作曲編曲は通常EDの『めいど・うぃず・どらごんず』や第3話特殊EDの『イシュカン♡リレーションシップ』を手掛けた気鋭の作曲家・星銀乃丈さんが担当しています。
一言で表すとめちゃめちゃオシャレでめちゃめちゃ凄い。tiny babyとしての活動に顕著ですが、星銀乃丈さんの音楽って渋谷系やシティーポップに裏打ちされててめちゃめちゃオシャレなんですよ。言っても主題歌はその辺抑え気味で普通にアニソンアニソンしてるんですが、キャラソンアルバムの試聴動画を通しで聴いた瞬間「は!?!?!!」みたいな笑
ああああ:
だいぶやっとるよね笑
小緑はる:
依頼の内容をクリアしながらも自身の音楽をやるってすごく難しいことだと思うんですが、それがきちんとできてるんですよね。
ああああ:
『Hey, lad!』に関しても、オシャレな曲ではあるんだけどきちんとルコアさんと翔太くんの可愛さが出てて、キャラソンとしてすごく魅力的なんですよね。
小緑はる:
僕が良いなって思うキャラソンの条件に「キャラが実際に歌ってる映像が頭に浮かぶこと」というのがあるんですが、全く曇りなくクリアされていて。
ルコアさんと翔太くんが楽し気に歌っている様子がありありと浮かんできますね。
ああああ:
ちなみになんやけど、キャラソンとしてマジで完成度高いなって思う曲でぱっと浮かぶのってどれ?
小緑はる:
んーーーー。。。ここで花小泉杏の『なるまるまーる』と言ってしまうのは簡単なのですが、主題歌になっていないものなら松岡美羽ちゃんの『おさんぽ協奏曲』ですね。『苺ましまろ』のキャラソンで、2005年リリースなんですがこの時点でアニソンラップは完全に完成されてると思ってます。
主題歌ならエリオをかまってちゃんの『Os-宇宙人』ですね。ダントツで。
ああああ:
いや確かにあれはえぐいな~~・・・!文句無しの満点だよね。
小緑はる:
なんと言っても前山田健一さんが、あ、前山田健一さんって実は共同で『電波女と青春男』の劇伴やってるんですけど。
ああああ:
え!?そうなんだ。普通に知らんかったわ。
小緑はる:
この前提知識があると露骨にヒャダイン感ある劇伴も分かるんでいいですよ。
んでまあ、その流れでキャラソンも担当してるんですよ。エリオの。
そのとき、『Os-宇宙人』があまりにも凄過ぎてはちゃめちゃな電波ソング作らなきゃってなったみたいなエピソードすらあるくらいなんですよね。『イトコ』っていう曲で、それもそれですごく良い曲なんですけど。
ああああ:
へえ~~~。
小緑はる:
やっぱり『Os-宇宙人』あってこそというか。
ボーカルディレクションを作詞作曲を務めたの子さん自らが行ってるっていうのは有名な話で、僕は『電波女と青春男』大好きで円盤持ってて何週もしてるんですがやっぱり何度聴いてもエリオじゃなきゃ有り得ないんですよね。
ああああ:
ちなみに僕は長野原みおの『ゆっこはほんとにバカだなあ』がぱっと浮かびますね。一番最後の「ほんとにバカだなあ」が本当に良いんだよなあ。
小緑はる:
分かるなあ~。みおちゃんの、ゆっこに対する「なんだかんだ言っても友達だしね」感が本当に良いですよね。
ああああ:
そうそう。「しょうがないなあ」的なね。
歌詞も作編曲もシンプルにまとめられてて、みおちゃんの声が耳に入ってきやすい感じも好きですね。
小緑はる:
『日常』のキャラソンは全部前山田健一さんが作ってるんですけど、前山田健一さんの曲のテーマって昔から本っ当に一貫されてて、「友情」なんですよ。
ああああ:
(笑)。言われてみれば確かにめっちゃそうだわ(笑)。
小緑はる:
本当にずっとで、今年のリリースでも、上坂すみれさんの『生活こんきゅーダメディネロ』って曲は生活がひもじくて大変だよ~的な歌ではあるんですが結局サビのラストで友情について歌ってるんですよね(笑)。
なので友情について書かせたらほんと右に出る者はいないみたいなところあると思ってます。
ああああ:
まーあこれも分かりやすく自分の好みですが、Official髭男dismの『Universe』ですかね。映画ドラえもん のび太の宇宙しょうりょこうの主題歌ですね。
小緑はる:
正しくは「小戦争」と書いて「リトルスターウォーズ」と読みます。
ああああ:
あっ、出た!笑
小緑はる:
僕ドラえもんオタクなんでね、そこはしっかり咎めていきたいなと(笑)。
ああああ:
普通に知らんかった。。
でまあ、全部好きなんだけどイントロの求心力が凄いですよね。ピアノとパーカッションだけのシンプルな編成なんですけど「これから何が始まるんだろう」っていう期待感がすごくあって、イントロとしてマジで最高の役割を果たしてるなあって思いますね。イントロって大事やなって改めて思いましたね。
小緑はる:
僕は理論の詳しいこと全然分かんないですけどやっぱりあのイントロすごく好きで、きっとすごく難しいことをやってるんですけどキャッチーなのでお堅い印象は受けないし、むしろそれをフックにしてワクワク感をどんどん押し上げてる感じがあって、僕も『Universe』全体的に好きですけどやっぱイントロですね。
ああああ:
そうだね~。そこから段々編曲でこう、ブラスとかが増えていくっていう流れの作り方も上手いしね。
あと、ドラえもんの歌としての言葉遊びも楽しくて好きだなあ。
小緑はる:
のび太の言葉ではなくてあくまで藤原聡さんの言葉ではあるんですが、のび太の考えてることとか悩みとかがうまく表現されててきちんとドラえもんの曲なのも良いですよね。
それと、これは宇宙小戦争のリメイクなので元になった映画があるんですけど、そっちの主題歌である武田鉄矢さんの『少年期』って曲が今でもドラえもんファンの間では語り草の超名曲でして。
ああああ:
あ~、あれかあ!
小緑はる:
なので、リメイクやるってなって、主題歌が髭男!?みたいな。持ち味の未練がましい恋愛の感じは絶対合わないしどうなっちゃうんだろう・・・って思ってたんですけど、『Universe』を聴いてもうほんと言うことないですって感じでしたね(笑)。
◆3曲目
小緑はる:
えー、という訳で僕の3曲目はですね、魔界ノりりむちゃんの『poe poe♡cosmic』です。
ああああ:
おおー!!!良いねですね!笑。いや良いですね笑。
小緑はる:
でしょう、これを5選に持ってくる辺りがいかにも僕らしいでしょう(笑)
VTuberが流行り始めた頃から音楽は聴いていて、2020年中旬になって本格的にVTuberそのものにハマりました。
「今年のVTuber音楽シーンやばすぎ!!」って毎年言ってる気すらしますが、そんな中でも今年一番好きなのがこれですね。(魔界ノ)りりむちゃんの配信のOPです。
ああああ:
これはなー、りりむちゃんだよなあー!
さっき語った良いキャラソンの条件みたいなところにも関連してくるけど、これほんとりりむちゃんなんよな。
小緑はる:
そうそう。歌詞も含めて、りりむちゃんじゃなきゃ絶対に成り立たないのがほんとに凄いなと。
サブ垢のツイート見てると分かるんですけど、何気にりりむちゃんって所謂病み系の音楽に対するアンテナかなり鋭いんですよね。BPM15Qとか大森靖子さんとか。
抜けてる部分がクローズアップされがちなりりむちゃんですが、こういう根っからのオタク気質な部分が良い音楽を引き寄せるんだよなーとか思ったりもしますね。
ああああ:
あ~やっぱ久々に聴いてみてるけど良いなあ。リズムのフックも楽しい。
音楽とは関係ないけど今りりむちゃん雑談配信やっとるね。
小緑はる:
あ~マジか、後で見なきゃ。そういや今日ウヅコウも雑談やってて、たまにやる謎の女装配信だったんですけどそこで新規のラ帰雪牛アレンジが披露されまして(笑)。まずなんかラブライブじゃなくてアイマスになってて、しかも最後牛丼食わないで帰るっていう笑
ああああ:
やばすぎる笑
ああああ:
図らずも僕もV関連でして、Rain Dropsの『エンターテイナー』ですね。
にじさんじ内のユニットの楽曲なんですけど、これがまたねえ、作詞作曲編曲がじんさんと堀江晶太さんの合作っていうね。
小緑はる:
絶対に外れないやつだもんなあ。VTuber音楽シーン、こういう感じのビッグネームがもう本当に当たり前になってきてるんですよね。今年でだいぶ最高到達点までいった感じありますけど。
ああああ:
今年だいぶやっとったよね(笑)。
小緑はる:
じんさんと堀江晶太さんってまさにボカロ文脈から引っ張ってきた場合の最高到達点のひとつで、アニソン文脈からももう相当引っ張ってきましたからねえ。
ああああ:
小緑はる:
ああああ:
まあそういうヤバい中の1曲ですけれども。
とにかく『エンターテイナー』ってタイトルから想像できるように展開が楽しくてエンタメ性に富んでるんですよね。どんどん流れるように曲の雰囲気が変わっていって、本当に聴いてて飽きないようなプラスのエネルギーに溢れてる曲だなって。
じんさんと堀江晶太さんがかなり話し合って制作されたみたいで、実際それが分かるぐらい物凄く緻密な作りしてるんですよね。Rain Dropsの6人それぞれの魅力が出るように担当パートが組まれてて、コンテンツが好きな人にしか作れない、愛に溢れてる曲だなあと思います。
小緑はる:
今、VTuber見てる人ってすごく多いじゃないですか。当然クリエイターにも多いんですよね。VTuberに対する愛がもともと強い方々が今こうして楽曲提供をしてるっていうのがすごく綺麗な流れだなとも思いますし、そりゃ名曲も生まれるわなっていう。
ああああ:
そうだね~。特に鈴木勝パートからラスサビに向かうまでの展開づくりがすごい好きですね。
いや全部良いんだよなあ。やっぱコンテンツに愛のある人が作る創作物って良いですよ。
小緑はる:
自分が作る側にまわっても、摂取する側のオタクであり続けることって本当に大事ですよね。コンテンツを愛していると、心が弾力を失わずに済むといいますか、創作物に対するワクワクした気持ちをいつまでも抱えていられるんじゃないかなと思ってまして。
今回挙げれなかったけど大好きな曲で、にじさんじの全体曲的なやつで『Wonder NeverLand』ってあるじゃないですか。あれの「いつまでも僕ら子供のまま 遊び続けよう」って歌詞がすごく好きで。そういうマインドがあってこそだよなあ、と思いますね。
ああああ:
『エンターテイナー』も、依頼で作られた曲ではあるものの実質ファンメイドソングみたいなもんですからね(笑)。
ああ、この2人Rain Drops好きなんだなっていうのがめちゃめちゃ伝わる曲で、それだけでにじさんじっていうコンテンツを愛してやまない自分としては嬉しい気持ちになりますね。
◆4曲目
小緑はる:
Gothick×Luckの『ユメゴゴチ進展系!』ですね。けものフレンズ2ED『星をつなげて』で知られるGothick×Luckのアルバム『おやすみ おはよ』収録曲です。
田淵智也さんの才能ってマジで全く枯れる気配が無くて今年もとんでもないリリースをガンガン繰り出しましたが個人的なベストはこれですね。最後まで迷った候補だとDIALOGUE+の『あやふわアスタリスク』や天音かなたちゃんの『特者生存ワンダラダー!』があります。
何が凄いかって言うと、アニソン派!で語られていることでもあるのですが、明るい曲より暗い曲の方が作るの簡単なんですよね。だから暗い曲は悪い音楽だっていうわけでもないのですが。実際のところ『宝石の降る夜に』だって心の結構暗い部分にフォーカスして少しずつ前を向いていくような作品ですし。
ただ事実として”最初から最後までひたすら明るい曲”を作るのは難しいんです。やっぱりどこか暗かったり感傷的だったりしないと展開が作りづらいというのもある。
ああああ:
そうだね~。
小緑はる:
だから、ひたすら明るい曲を作り続けているという点で田淵智也さんは本当に凄いんですよ。
ああああ:
このテンポでブラス鳴らしてる田淵さんハズレ無いからなあ。
小緑はる:
2番Aメロの省略の仕方がめちゃめちゃ面白いんですよ。
往々にして冗長になるのを防ぐために2番Aメロが半分になったりBメロが省略されたりっていうのはありますが、『ユメゴコチ進展系!』はすごく大胆なことをやってて、それで繋がっちゃうんだ!っていう気持ち良さがありますね。
ああああ:
こういうの下手にやっちゃうと変な感じになっちゃうからなあ。頭がめちゃめちゃ柔らかいんですよね。
ああああ:
もうこれもね、分かりやすく「ああああさん好きそう~笑」みたいな感じなんですけど、sumikaの『Shake & Shake』ですね。うん、好きそうでしょ(笑)。
小緑はる:
ですね(笑)。ああああさんと親しい人やああああさんのファンだったら満場一致でそれはそうとなるやつですね。
ああああ:
サビがありえんぐらいキャッチーで明るくて楽しい曲で、2番Bメロのシンセチックな編曲になるとことか外連味効いててすごく好きですね。
てかまずBメロ良いんだよなあ。
小緑はる:
聴いてると歌詞の通りに「あ、あっち!?こっち?え、そっち!?」みたいになりますね(笑)。振り回されてる感があってすごく楽しいんですよね。
ああああ:
ね!遊び心に溢れてるよね。
時間ができたらタイアップ先のアニメ『美少年探偵団』を見てみたいなーとも思ってて。シャフトだよね。
小緑はる:
そうですね。西尾維新さんとシャフトの組み合わせで、そうだなあ、<物語>シリーズって阿良々木ハーレムじゃないですか。
ああああ:
そう、見た感じ逆で女性向けっぽく思えるんだけど、たぶん違ったりするんだろうなとは。
小緑はる:
いえ、言うて結局全話見るとやっぱ女性向けの要素強いな、とはなりますよ(笑)。なりますが、そういうのとは関係なく青春爽快ミステリーなのがオススメポイントですね。
美少年探偵団の団則がそれを端的に示していて、主人公の瞳島眉美ちゃんは少年じゃなくて少女なんですけど、美しくあり、探偵であり、チームであり、そして少年のような心を持っていれば団員なのだと。
諸事情あって最初は心が閉じ気味な子なんですが、そんな団員たちと共に団員として事件を解決していく過程で心が開いていくっていう。そういうところが青春で爽快ですごく好きです。
ああああ:
なるほどなるほど!『Shake & Shake』に合わせたオープニング映像もめっちゃ良いよね。
小緑はる:
そうなんですよね。この演出はアニメーター・演出家の梅津泰臣さんが手掛けてて、シャフトでやった代表作だと『それでも町は廻っている』のOPとかがあります。
ああああ:
ああ~~~なるほどね!
小緑はる:
あと『Dimension W』OPとか、自身が監督も務めた『ウィザード・バリスターズ 弁魔士セシル』OP,EDとか、まあ他にも色々あるんですけど。大好きなアニメーターですね。
ああああ:
なんかね、キャラクターたちの踊りが生き生きとしてて可愛らしくて素敵だし、なおかつちゃんとキャラの個性が出てるのが素敵だなって思いますね。
小緑はる:
梅津さんって、曲を100回とか聴いてから演出に臨むらしいんですよ。なのでそもそも音楽に対してすごく真摯な姿勢を持っている方で、結果としてああいう音楽との融合がすごく楽しい映像が生まれてくるんですよね。
ああああ:
へぇ~!なるほどなあ。
小緑はる:
sumikaとしてのMVも、"shake"だけになんかバックダンサーたちがシャケ持って踊ってるんですよね(笑)。あれも面白くて好きですね。
ああああ:
そうなんだよね(笑)。
◆5曲目
小緑はる:
僕の5曲目は、サカナクションの『プラトー』ですね。とにかく歌詞と編曲が怖いくらいに洗練されてて。山口一郎さんの美学を煮詰めたような曲だと思います。
表向きはキャッチーで爽やかなロックなんですが、歌詞は何も特別で大仰なことは歌っていないというのがまた良くて。
プラトー(plateau)というのはフランス語で「水平状態」を意味するらしく、その曲名の通りただただ「今は平行線上で逡巡しているけど、いつかまた僕が感じた・考えたことを音楽に乗せて伝えるよ」という創作に対するプリミティブな気持ちを歌った曲な気がしてるんですよね。
創作性って、要は自分が触れた空気の手触りや温度や匂いを自分ならどういう風に再現するかということだと思ってるので。
ああああ:
とにかく全てにおいてマジで無駄が無くて、過不足が無いんですよね。サカナクションっていう括り全体で見てもかなりヤバい部類な気がする。
小緑はる:
随分長いことサカナクションのファンやってますが、5本指に入るくらい好きですね。シンセ、ピアノ、ギターってサカナクションにとって特に重要な楽器だと思うんですがそれらも全部効果的に揃ってて。
ああああ:
なんというか本当に真摯に音楽に向き合い続けた人が辿り着く境地というか、この曲はひたすらにかっこいいですね。
ああああ:
じゃあまあ、ラストいきますか。僕が今年の5選にOSTERさんの曲を挙げないわけがなくて。
小緑はる:
まあそうですよねえ。
ああああ:
というわけで、OSTER Projectさんの『アズールブルー』ですね。「つながる詩の日」っていう、ボカロPと歌い手の組み合わせで色んな方々が集ってライブパフォーマンスをして人気投票をするっていう企画があって、それに宛てられた曲ですね。
僕が中学生の頃に聴いて惚れ込んだ、OSTERさんの『マージナル』って曲があるんですけどメッセージ性がかなり近しい部分があって、歌詞みるとほんと分かりやすいんですけど、「劣等感で苦しむことって誰しもあるけど、自分自身の中にある"色"を大切にして生きていきたいよね」っていう。
小緑はる:
あ~~はいはいはい。
ああああ:
普段のツイートとか見てる方なら分かると思うんですけど、『マージナル』然りOSTERさんがこういうメッセージ性の曲を作るときってたぶん相当気合い入れてると思ってて、そういう熱量を感じるのも好きですね。
この曲を歌われたゆらぎさんのライブパフォーマンスの熱量も本当にすごくて、実際「つながる詩の日」でオーイシマサヨシさんとヒャダインさんから票をもらって優勝を飾ってたんですよね。っていうのが頷ける完成度かなと。
小緑はる:
僕もYouTubeでこれの動画何回も見てて、『OSTERさんのCD VOL.3』でも何遍も聴いてて、すごく好きな曲ですね。
ああああ:
ゆらぎさんの歌も本当にうまくて。シアーミュージックっていうボーカルトレーニングスクールの、講師ではなくて受付の方なんですけど。
OSTERさんがこのゆらぎさんの歌唱力を全面的に信頼して書いたメロディだなあっていうのも含めてすごい良いっすね。
小緑はる:
僕は今年のOSTERさんの曲だと『コバルトの鼓動』が一番好きで。
ああああ:
あーれもよかったねー!
小緑はる:
ラスサビの「刹那に」でボーカルとギターをユニゾンさせてるのがマジで天才すぎると思ってるんですよね。
ああああ:
あ~~~あれね!!OSTERさんがアニソン主題歌提供するのってだいぶ久々なのでそこも嬉しかったですね。
小緑はる:
あれですよね、sweety『back into my world』以来ですよね、たぶん。
ああああ:
うん、そのはず。・・・・でね、この『アズールブルー』が収録されている『OSTERさんのCD VOL.3』に、なんと。
小緑はる:
(笑)。なんと!?
ああああ:
なんと、ああああって人が作った『rainbow』って曲の、OSTERさんによるRemixが、入っている!?
小緑はる:
入っているらしい!
ああああ:
(笑)。ほんと、こんなことあるんやなあって感じですけどね。まあアルバム『セーブデータとほうき星』のときに依頼投げたの僕やけど、もうOSTERさんのファンになってから15年とか経ちますからねえ。
小緑はる:
僕もああああさんよりは後発ですがOSTERさんのファンのひとりで。『rainbow(OSTERさんの逆襲Remix)』は作詞者特権で世界で2番目に聴けた人間なのですが、本当に感情になったなあ。
ああああ:
めっちゃ良いリミックスなんよなあこれ。完成品が届いたとき小緑氏の家で聴いて二人して感情になっとったもんね(笑)。あれももうかれこれ2年前かあ。
小緑はる:
懐かしいですね(笑)。
ああああ:
あのね、OSTERさんが「自分の影響を受けて音楽作ってくれたりするとそれはクリエイターにとって最強に嬉しい瞬間なんですよ、本当に。」ってツイートをしてて、僕も僕で、「ああああさんに影響受けてます!」とか「ああああさんの音楽聴いて作曲始めました!」っていう方がマジでいるのよ。ありがたいことに。
小緑はる:
いやまあそりゃあいますよ。
ああああ:
僕がOSTERさんに憧れて作曲にどんどんのめり込んでいったように、そういう創作のループの一部に僕もなれているんだなあっていう事実が最近本当に嬉しいんですよね。っていう話をしたくて。
小緑はる:
あー。例えば『rainbow』とか『セーブデータとほうき星』とか、そして今回作った『宝石の降る夜に』とかを聴いて、良いな、生きる活力を貰えたな、自分も創作やってみようかな、みたいな気持ちになってくださった方がいらっしゃるなら、それは僕にとってもすごく嬉しいことですね。
ああああ:
うん、本当にそうだねえ。
あの、少なくとも僕は普段から狂ったように作った曲の感想とかをTwitterでかき集めてるんで、月あかりの研究会のリリースについても、「良いな」って思ったら是非ご感想を書いていただけると幸いです・・・!
小緑はる:
僕もときどきエゴサはしてて、皆さんのご感想は拝見させていただいてるんで、やっぱりあったら嬉しいものですよね。僕からもお願いします、という感じで。笑
ああああ:
はい(笑)。こんなところで、まあ綺麗にまとまったんじゃないすか?
小緑はる:
ああ、なるほどね。『アズールブルー』をラストに語ったらこういう風に着地してまとまるんだ。
ああああ:
正直ね、その辺もちょっと考えてた(笑)。
小緑はる:
『コバルトの鼓動』じゃなくて『アズールブルー』を選んだあたり、まあワンチャンそういうことを企んでそうかなとは思ってたんですよね(笑)。なるほどね。
終わりに
小緑はる:
一応今後のリリースとしてボーカル曲主体のアルバムとインスト曲主体のアルバムを1コずつ計画してて、まあちょっと色々と立て込んでいて時期はどうなっちゃうか分かんないので未定ってことにしてるんですけど。
ああああ:
上手くいけば春なんちゃらと秋なんちゃらにご期待くださいって感じですね(笑)。
小緑はる:
そうですね(笑)。
ああああ:
そういやこれ聞きたかったんだけど、『魔法仕掛けのホログラム』とかって「こういうのやりそうで意外とやってなかったからやってみたいよね」っていうのが根本にあったりするじゃないですか。後々こういうのやりてえなっていうの今あったりする?
小緑はる:
あ~~。
ああああ:
僕はねー、掛け声とかが入ってるタイプの元気なアニソンみたいなやつ。具体的には『特者生存ワンダラダー!』みたいな。
小緑はる:
あ~はいはいはい笑。
ああああ:
ああいう掛け声使ってみたいなっていう願望が結構ありますね。
小緑はる:
なるほど。僕は透明感のある明るいシンプルなアニソンやってみたいなっていうのはずっとありますね。何気に作ってそうで作ってない。
ああああ:
あ~、透明感って言うと『光の凪にうたって』とかは割とそうだと思うんだけど、これではない感じ?
小緑はる:
あ~、もっと速いやつですね。例えばSTARTails☆の『ne! ne! ne!』とか小倉唯さんの『永遠少年』みたいな。
ああああ:
あ~~なるほどね!良いね。意外とやってないね。
小緑はる:
そうそう。まあどういう風にリリースするかが悩みどころではあるんですけど。
ああああ:
僕個人の活動みたいに単曲でぽんぽんと配信リリースしていきたい気持ちもあるよね。一枚絵か映像作っていただいたりして。
小緑はる:
CDに拘り過ぎずにそういうのも良いかもですね。
小緑はる:
という訳で。今回改めて振り返ってみて色々な発見がありましたよね。あとやっぱり良いものを作れたなあという実感が再び。
ああああ:
ね!いや楽しかったわ。ちょっと解釈に困ってた部分とかもすっきりしたし。
あとはあれですね、この莫大な量の対談を書き起こして、まとめてっていう作業が・・・笑。
小緑はる:
いやほんと、たぶんこれめちゃめちゃ大変なんですよ(笑)。目測を誤ったというか。
ああああ:
無理はしないでほしいけど、まあ一応年末の振り返り企画なので年内には間に合わせたくはあるよね。
小緑はる:
明日以降も忘年会やらなんやらで予定がぎゅうぎゅうに詰まってるのですが、まあ12/31にはなんとかこさえたいですね・・・笑。まあ、頑張ります。
では改めてお付き合いいただき本当にありがとうございました~。
ああああ:
あい~。
『宝石の降る夜に』
月あかり研究会, 2021